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0219
生まれたばかりのあいつは 俺に連れられて 円満とはとても言えない 我が家にやってきた
すぐに自分の家だって思ってくれたし 殺伐を忘れさせてくれる大事な家族になった
マイペースにウロウロ 眠くなりゃスヤスヤ おかげでどれだけ俺は優しくなれただろう
家に着けば聞き慣れた鳴き声が響いて どうでもいい疲れまで吹き飛ばしてくれる
そんな奴だった 臆病な人見知りなくせに ドアを開ければ一目散に玄関を駆け抜けて
夜中に散歩へ出かけて 決まって朝に戻れば 憂鬱を癒す寝顔が毎日の救いだった
帰りが遅いと 家族はヒヤヒヤ 依存の分だけ不安は強くなるばかりで
可愛がれば可愛がるだけ別れが怖くなる いつか訪れるその時に震えるしかなかった
そんな俺たちお構いなし当たり前のように 大好きなエサをねだる無邪気な鳴き声が響く
あの日を境に 朝日が昇っても 真夜中になっても 何日経っても 帰ってこなかった
悪い予感を背負って必死で探し回っても見つからなかった
頭のいいあいつは最期を見せやしなかった 遺された俺たちの涙零れないように
悲しいことは忘れた時に思い出したように 思いがけない形で虚しく訪れる
危なっかしい覚悟は何の足しにもならずに 受け入れるしかない現実が重くのしかかって
癒えない傷が痛まないよう話題にしなくなった だけど今夜も夢の中で何食わぬ顔して
あの鳴き声を聞かせてくれる
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